新たなロンドンの音楽ハブ、タイルヤード・スタジオ

昨年の夏、ロンドンの某レコード会社のオフィスを訪ねた。エド・シーランを発掘したというA&Rに、イギリスでリリースしたいと思って作っていた曲を聴いてもらうと、とある音楽弁護士を紹介してくれた。イギリスやアメリカの音楽業界では、音楽専門弁護士がキープレイヤーだということをこのとき初めて知った。
この音楽弁護士のオフィスは、ユーロスターの発着駅、キングス・クロスの近くのタイルヤードというエリアにあった。

ロンドンの大半の地域と同様、このエリアは私が留学していた当初はあまり綺麗で安全な印象はなかった。それがオリンピック効果なのか好景気だからか、10年後に来てみればどこも再開発されおしゃれスポットになっていた。
まさにこの再開発に伴い母校のセント・マーチン芸大もこのエリアに引っ越し、ボロボロな廃墟のような校舎で学んでいた私の学費返して!と言いたくなるような立派な校舎がそびえ建っていた。

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このリノベーションバブルの波に乗って出来たタイルヤードも、多分以前は名前からしてバスルーム用品の倉庫地帯だったのだろう。

今のタイルヤードの実態は、70以上の音楽スタジオと100以上のオフィススペースで構成される、新たなロンドンの音楽業界のハブ。
ほとんどのCDショップが潰れ、大きなレコーディングスタジオも廃業に追い込まれているロンドンで、なぜまたこんな豪華な施設が誕生したんだろうか?とびっくりしたが、次第にその謎が解けていった。
これらの音楽スタジオは、ほとんど個人のプロデューサーのものか、出版者たちが作家たちのセッションに使うスタジオレンタル用のもの。
大きなスタジオが店じまいせざるを得なくなったのは、プロデューサーが高いスタジオを借りなくてもいいような音源機材や制作環境へと変化していった時代性にあり、極端に言うと家内制手工業化してきたといってもいいのかもしれない。

大きなスタジオを借りる=弦など生楽器を生のグルーヴ感を生かして良質な音で録る

この反対にあるのがEDM、ダンスミュージックだ。

ラップトップ一つで作ることができて、ライブ機材もUSB一本のみでもいい。これらの音楽プロデューサーはある程度成功すれば自分のスタジオを持つようになり、その需要に応えたのが、タイルヤードスタジオというわけだ。
ラジオをつければしつこいぐらいにダンスミュージックが流れ、どの曲も同じ構成、しかも同じ曲が一日に何度も流れる。
日本から想像するUKミュージックシーンといえば古き良きビートルズやストーンズなどの影響を受けたロックや、クロスカルチャーなロンドンを代表するような個性的でオーセンティクな音楽かもしれないが、実際に来てみると驚くほどにファストフードならぬ産業化されたファストミュージックで溢れていた。
多くのトラックは、トラックを作るDJ・プロデューサーと、トップライン(メロディ)を作る作家たちで構成され、出版社は作家たちを管理しつつ楽曲が売れるほど儲かっていく。
少々生々しい話になってしまったが、そんな産業サイクルの上で作られたタイルヤード。
ある意味、イギリスの音楽業界の新たな時代を作っていく場所になりそうだ。

いくつもの建物ブロックから見つけ出した音楽弁護士の事務所。

新しい学校の校舎を彷彿させる無機質な灰色の階段を上っていくと、そのオフィスがあった。(つづく)

 

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