イギリスの田舎でタイムトラベル

夏目漱石が『倫敦塔』でロンドンの情景を表した、こんな一節がある。

見渡したところすべての物が静かである。物憂げに見える、眠っている、
皆過去の感じである。

漱石の時代から既に『過去の感じ』だったロンドンだが、今でもそのなんとも言えない憂いと、時空の停滞感は健在だ。むしろロンドンはいいほうで、郊外に足を運ぶと、更に500年ぐらいタイムスリップした感覚が味わえる。

以前紹介したイギリス各地に点在するナショナルトラストの屋敷をはじめとし、田舎を探索すれば数々の名所が何百年も全く変わらずに存在している。個人的に19世紀の風景画が好きなのだが、ゲインズボローやターナーなどによる名画の元になった風景が、田舎に行けばそっくりそのまま広がっているのだ。


Thomas Gainsborough “Wooded Landscape with a Peasant Resting”

絵のモチーフになった場所ではないが、こちらはStourheadというお屋敷の広大なお庭。


当時の風景画家達が魅了されたのも納得がいく絶景。

先日、11世紀末創立という歴史を持つオックスフォード大学を訪れた。
街並み、大学の建物はもちろんのこと、学生の日々の習慣も伝統を重んじられているようで、時を知らせる鐘の音からもその歴史が伝わってきた。

滞在先は、学生街から車で40分ほどのAylesburyという村の古民家だったのだが、ホテルや結婚パーティー、映画やドラマの撮影場所としても貸し出している大きな邸宅だった。家主さんが、大きなセントバナード犬とともに出迎えてくれた。
この建物、なんと14世紀に建てられたという。敷地内に牧場もあり、自家製の豚や鶏を朝食に出してくれた(可愛い子ブタちゃん達を観たあとだと少し気がひけるが。。)


オックスフォードからさらに北上すると、
世界遺産に登録されているブレナム(Blenheim)宮殿がある。宮殿というだけあって、イギリス・バロック様式で建てられた豪華な建築で、18世紀はじめにマールバラ公ジョン・チャーチルの邸宅として完成された。苗字からご察しの通り、この方の子孫は第二次世界大戦中に首相を務めたウィンストン・チャーチルである。宮殿ツアーを散策すると、元首相が産まれた部屋が当時のまま再現されていた。この宮殿ツアーには、細やかに動く人形などを使ったオーディオビジュアルツアーもあり、さすが世界遺産なだけあって、観光客を魅せる工夫が一段となされていた。


公爵といいつつもこの家系は一時自己破産しかけ、第9代公とアメリカ人大富豪の娘の結婚のおかげで宮殿を持ち直すことができたという。(個人的にこのアメリカ人妻に興味を持って、彼女の自伝を買ってしまったぐらい。その本には、お嫁入りした際に写真のパイプオルガンの演奏を聴いたことなどが書かれている。)さらにウィキペディアによると、現公爵である第12代マールバラ公は薬物中毒者として著名だそうだ。有り余るお金と伝統、名誉ある称号を背負って産まれてきたイギリスの上流階級の実態は、デカダンで破天荒な一面もあるのかもしれない。

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