音楽業界弁護士を訪ねてみる

そのときは弁護士がどれだけ音楽業界に意味を持つのかを知らないまま、まるで就職面接に向かうような気持ちで事務所に向かった。
この人がイギリスでの音楽の道を切り開いてくれるかもしれない、という夢見がちな期待もあったが、この期待は見事に裏切られることになる。

女性秘書に名前を告げると、入り口のソファで『ここで待っていてください』と言われる。すぐ向かいにはガラス張りの弁護士のオフィスがあり、本人は大きな机に向かっている。
ガラス張りで丸見えなのにここで待たされる理由は何なのかと思ってしまう。室内には、よく音楽事務所にありがちなゴールドディスク的なプレート、レコードコレクションなどが並べられている。

やがて出て来た弁護士は、少し気難しそうな印象。
長年20カ国上の国でコーポレートビジネスを経験している旦那さんからのアドバイスで、こういったミーティングの際は必ず世間話から始めて相手との共通点を探し、場を和ませること、と言われている。
タイルヤードに初めて来たこと、近くに母校の新校舎が建っていて驚いたこと、そしてイギリスでは相手に日本に来たことはあるか、興味があることなど聞いてみる。
一通りの世間話が終わると、本題に入る。
自分の簡単な経歴と、イギリスでアーティストとして活動を始めたいという話をする。
次第に弁護士は硬い表情になり、
「レコーディングアーティストとしてイギリスで成功するのは断崖絶壁を登るようなもの」と言う。
楽曲提供する作家としてなら可能性はあるが、それも険しい山を上っていくようなものらしい。
ものすごい労力と時間が必要だし、何より献身的に続けなければいけない、と。
当時(昨年夏)はまだシンガポールに住んでいて、イギリス移住は決まっていなかった。
「まずはイギリスに引っ越さないと何も始まらない」という言葉には、たしかに納得できるものがあった。
時間もお金もものすごいかかる、もしあったとしても使わないほうがいい、とも彼は付け足した。
「ん?じゃあ何もしない方がいいってこと??」出来ることの可能性を探るためにアドバイスを聞きに来たのに、『出来ない理由』ばかりの発言ばかりでなんだか苛立って来た。

この『出来ない理由』を言う人は沢山いる。自分にも気付かないうちにそんな癖が出ているときがある。
これは本当に勿体ないことだし、一番避けたいこと。
必ず『出来る理由』はどんな状況でもある。

上から目線の口調、現実的だけど否定的な意見、これらは弁護士という職業柄つい出てしまうことなのかもしれないが、この日の訪問は不快に終わった。
同時に、イギリスでの音楽ビジネスは生温いものではないということも勉強になった。

この生意気弁護士おじさんをぎゃふんと言わせてやる。という具体的な目標も見つかった。

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